お金で測る世界ではもっとも豊かな国の一つ、日本。
でもこれほど夢と希望と笑顔に乏しい国もめずらしい。
明治維新以来、150年にわたって続いた成長と拡大の歴史が、新たな転機を迎えようとしている国。
戦後の70年間、山村から都市へと人々は出て行った。
山村では若者と子どもの姿が消え、草ぼうぼうの農地と間伐遅れのうっそうとした森が広がる。
一見きらびやかな都市では、すべてをお金で買う暮らし。そのためにまずお金を稼がなくてはならず、長時間、過酷な労働を耐えながら、人としての尊厳を切り売りする日々。
若者たちもシニア世代も、手応えのない毎日の中でとまどい、自分の居場所を探してさまよう。
子育て世代は、持って行き場のないストレスにさらされている。
子どもたちもさまざまな心と体の不調にみまわれている。
2010年頃から、そのような都市から、ノアの箱船を探すかのように、山村に通いつめる人々が現れはじめた。その中には、都市をあとに山村に移住する人も出てきた。
彼らの多くは食・住・エネルギー・教育・福祉・医療システムなど生きる基本を自らの手で作り出す農的暮らし・現代の百姓をめざしている。
お金に心を支配されないよう、丁寧に手間をかけ心をこめて毎日を暮らしている。
一般社団法人おいでん・さんそんはこのような時期に、住民、行政、NPO、専門家が共に汗を流し努力する場として立ち上がった。
人間の歴史とは、直面する課題に真摯に取り組み、ひとつひとつ乗り越えていく努力の積み重ねである。私たちは、この今の豊田市において、都市と山村の両方の課題をひとつながりのものととらえ、これに取り組んでいく。
私たちが目指す未来とは、
都市においても山村においても、人々が暮らしに満足している社会。
それは、誰もがひとつのいのちとして大切にされ、他のいのちとともに尊重され、
人々の間でも、人と自然、世代と世代の間にも豊かなコミュニケーションのある社会。
それは、自治を基本とする社会。
地域の課題は地域住民自らが見出し、課題解決のための取り組み方針を決め、実践する。それを行政、NPO、専門家が有効に支援する社会。
それは美しい風景のある社会。
農・林・エネルギーをなりわいにしながら持続可能な形で暮らしの糧を得て、
さらにすぐれたデザインのもとで心を耕すことのできる風景。
それは多様な選択肢があり、望めばかなえられる社会。山村に住みたければ、
住む場所も、なりわいも、さまざまな相互扶助と支援のもとで得ることができる社会。
都市に住んでいても、山村の恵みを日々の暮らしの中に実感できる社会。
それは苦労をシェアする社会。困った人を見捨てず、そのために助け合い、地域の資源を投入するしくみをもった社会。そのことによって喜びをシェアする社会。
それは子どもたちの目が輝いている社会。
確かに美しく暮らすためのさまざまな思想と技術は地域の中で伝えられる。
それを身につけ実践するため、そしてそれを次の世代に伝えるために学ぶ。
世界をめぐって志を同じくする仲間に出合い、確認し心の奥に落とす。
この地に生まれ、育ち、暮らし、そして満足して死ぬことができる社会。
都市と山村の両方を抱える豊田市だからこそ、本当に満足できる暮らしのあり方を創り出すことができる。それを全国に、さらに世界に示すことができる。
一般社団法人おいでん・さんそんは、志を同じくする者が苦労と喜びをシェアしながら、
その実現にむけて努力する場となる。